
4月10日、入山2日目、順応でコロナハット(3,940m)をピストンする予定の日。しかし、面白みがないので、手元の資料を探りラツェクピークに目星をつける。
小粒だがピラミダルで見栄えのする山だ。北面に延びる岩稜と、南西面の岩稜が登られているようで、小屋のスタッフのおすすめは日照面の後者だったが、ミックスクライミングの要素がある前者に我々は惹かれた。

アクサイ氷河右岸のモレーン帯を登り、ルートに取り付く。易しいクライミングでリッジに上がるが、その先をアイゼンで直上するには難しい。リッジの反対側も厳しそうだったので、手前側を一旦巻き、適度な難易度で楽しめる凹角を登って稜に復帰した。そこから、もう1ピッチ岩稜を登って、傾斜が落ちたところから、同時登攀に切り替えて頂上まで。目指すコロナ・ピーク、フリーコリアがさらに間近に、凛々しく聳えていて、爽快だった。



下降は2回の懸垂下降で南側のコルに降り立ち、そこからガレ沢を下る。目の前に見える南西面の岩稜も楽しそうだ。日本で言えば、剱岳八ツ峰のⅥ峰フェースといったところだろうか。
4月のキルギスは20時頃まで明るい。就寝しようとしたとき、ロシアのおじさんに起こされた。
おじさんの指さす先には、ラツェク小屋前のモレーンを、シベリアンアイベックスの群れが、悠々と登っていく。彼らは、どこへ向かい、何のために上へと向かうのか。岩と氷の荒涼とした世界に、食べるものはあまりないだろうに。


彼らがどこかへいった頃、東側の山々にふっと灯がともった。明日もいい日になりますように。
