
苗場山の北麓に位置する釜川は、下流部の「田代の七ツ釜」で知られるように、幾つもの「釜」=「滝壺」を湛えながら清津川に合流し、信濃川へ流れ下る。
5年ほど前に、釜川ヤド沢を日帰りで遡行したことがあったが、イワナを釣りつつ、稜線まで上がってみたいと以前から思っていた。
1日目
駐車スペースから沢筋へ下ること約10分で、入渓となる。途中、山葡萄の蔓を見つけたので、ブドウがなっていないかそれとなく観察していたら、別のお宝を見つけた。
「サルナシだ!」
山の恵みに興味を持ち始めてからというもの、どこで採れるのだろうと思っていたものが、平然とあった。
きっと今までにも、見かけたことがあったのではなかろうか。意識が及ばずに、見過ごしていたのかもしれない。
柔らかな実を一つ手に取り、齧ってみると野生味のあるキウイフルーツといったところだ。

陽の差さない谷間の淀みは黒々としていて、どこか陰惨な雰囲気がある。
巨岩帯の中を右へ左へルートを取りつつ黙々と進むと、1時間ほどで二俣へ辿り着いた。
二俣から、釜を持つ滝が連続し、徐々に雰囲気も明るくなっていく。
9月も終盤となり、泳ぎの沢は厳しいか、とも思ったが、ウェットスーツで固めてきたので許容範囲の寒さだ。




やがて、奥の斜面に巨大なコンクリートの壁のようなものが見え出すと、記憶が一気に蘇った。
「あそこを曲がれば、三ツ釜だ」
雨の日、増水気味の中登った前回は、ちょっとした渡渉でも、ミスはできない緊張感があったが、今回は随分と余裕がある。
ホールドの細かい流水溝を突っ張りを駆使しつつ登ると、目の前に三ツ釜大滝が現れた。
ちょうど、青空も広がりだし、淀んだ釜は引き込まれそうなエメラルドグリーンとなり、色彩豊かに輝く。
二度目であるのに、目の前に広がる世界が素晴らしすぎて興奮し、二段目の釜で無駄に泳いでしまった。





ちょうど三ツ釜でヤド沢を分け、ここから未知の世界が始まる。
出だしは癒し系だが、徐々にゴルジュの様相を呈す。
しかし、そのどれもが程よい難度で越えていける。




足元をたくさんの魚影が走る。竿を出してみたりもするが、なかなか釣れない。
だんだん、泳いだり滝を処理するのが億劫になってきた頃、沢を横断する林道の橋に着いた。
お世辞にも良い幕場とは言えず、薪が乏しくイワナも釣れずに、若干の悲壮感が漂っていたが、持ってきたステーキを焼いて食べると、全て満たされるのだった。



2日目
2日目は打って変わって癒し系だ。
穏やかな流れになっても相変わらずイワナが走るので、悔しくなってまた竿を出す。
それでもあたりはなかったが、後ろを歩いてきたパートナーが、タモを持って近づいてきて、その中を覗くとイワナの姿があった。
どうやら、踏んでしまったらしい。そんなことあるのか!?
人間に踏まれてしまうほど無垢なイワナがいるのに、一向に釣れないなんてどんだけだろう。
しかし、ラストチャンスでパートナーがイワナを釣り上げた。
オレンジがかって、ツヤツヤときらめくイワナは美しく、自分のことのように嬉しかった。


ツメは大した藪もなく稜線に飛び出し、見覚えのある水平の頂稜の苗場山、ツンとした山頂の鳥甲山が出迎えてくれた。
秋風吹く稜線からは、麓の田園風景が遠望できて快適そのものだったが、下降は草と泥の滑りやすい登山道で気が抜けない。


ようやく傾斜が緩むと、今回のサブテーマである小松原湿原に辿り着いた。
分県登山ガイドを読み込んで登山をしていた中学生時代からの憧れだ。


黄金色に彩られた草紅葉と、そこに散りばめられた青空を映す池塘は、この世のものと思えぬほど美しかった。
「いつの間に天国に迷い込んだのだろう」
誰もいない湿原を満喫しながら、そんなことを思う。
少々陰惨な下流部から、爽快な三ツ釜。中流部のゴルジュ帯と、癒しの源頭。そして、天国かのような小松原湿原。
自然が差し出す、あまりにもできすぎた物語を、私はきっと、折に触れて思い出す。
Memo
日程
2025年9月27〜29日
行程
1日目:7:00 大場ゲートー8:10 二俣ー10:10 三ツ釜大滝ー15:00 林道の橋下
2日目:6:45 林道の橋下ー7:20 横沢二俣ー10:50 稜線ー12:10 小松原湿原上ノ代ー14:30 大場ゲート
ギア
30mロープ、リンクカム×2、スリング
下山後のおすすめ
かどまん食堂
腹が減っていたら、かどまんへ。ラーメンやカツ丼といった暴力的な食欲を収めるにはもってこい。
ラーメンは麺が太麺で食べ応えがあり、普通盛りでもボリュームがある。
