
言わずと知れた日本のフリークライミングのメッカ、「小川山」への道中、レタス畑の向こう側に顕著な三角形の男山と、岩壁を従えた重厚な山、天狗山が目を惹きます。
今回は、天狗山に突き抜けるマルチピッチルートの「天狗山ダイレクト」をご案内してきました。
小川山に近いといっても、天狗山の様相は全く異なります。岩質が違うからです。
前者は花崗岩、後者はチャートです。花崗岩はマグマが地中深くでゆっくり固まったものに対して、チャートは放散虫などの殻が海底で堆積した岩であり、非常に硬い性質を持っているため、岩壁を形成していることが多いのです。

馬越(まごい)峠から登山道を進み、途中からロープを潜って南側へ下降し、取付へ。
真っ赤に色づいた山葡萄の葉があたりに点在していて、秋の深まりを感じます。

パッとしない出だしを登ると、顕著な岩塔。
これを左から回り込みながら登りますが、ホールドがやや微妙で、脆さもあるため注意が必要です。


そのあたりから、なんと雨!
天気に悩まされ続けた10月、今日こそは問題ないはずだったのですが、ここにきても逃れられないようです。
幸い、20分くらいで強雨は止み、日差しが回復していきました。
眼下に広がる黄色、橙色、緑の木々の海。あと数日で、美しさは最高潮に達することを予感させました。

しかし、濡れたチャートは、たちまちフリクションを失い、神経を遣います。
乾いていれば何気なく置けるフットホールドも、丁寧に押し付けながら登ります。
前半パートが終わると、しばらく歩きとなり、再び始まるクライミングセクションが、「門」と呼ばれるパートです。
濡れてなければあまり問題になりませんが、ちょっと嫌らしい感じでした。


中間部を終えると、「三段岩壁」が目の前に立ちはだかります。
クライミングのグレード的にはここが核心となりますが、ボルトの整備された安定したフェースクライミングなので、むしろ楽に感じるかもしれません。



三段目の最後、リッジに上がるあたりの岩が不安定なので注意が必要です。
苔の生えた傾斜の緩い岩を登って、クライミングは実質終了。
踏み跡を辿ると、天狗山の山頂に飛び出しました。

降ったり止んだりを繰り返し、安定しない空模様でしたが、山頂に着くちょっと前から、天狗山周辺から雨雲は抜けていきました。
雨が降っているところ、日が差して青空が覗いているところ、ガスが巻いているところ。360°の広い空を眺めれば、雨雲が流れて目まぐるしく変わる天候の変化を感じることができます。

やがて、天狗山周辺は、青空の勢力が優勢となりました。
下山途中に振り返ると、我々が辿った空との境界を成すスカイラインの向こう側へ、太陽が沈んでいこうとするところでした。

空は淀みなく真っ青に澄み渡り、左頬に冷たい風を感じながら、落ち葉を踏み締めて下山しました。
もう秋も、終盤に入っていくと思うと、少し寂しく思います。
清々しい秋晴れが、続いてくれるといいのですが。
雨が降ってしまい、緊張感のあるコンディションとなってしまいましたが、お二人ともナイスクライミングでした。


