
快晴の新潟平野から電車に揺られつつ、阿賀野川に沿って山あいに分け入ると、周囲は徐々に濃い霧に覆われ始めた。
思えばここを通るたび、霧の中の気がする。しかし、案ずることはない。川霧が立ち込めるのは、寒暖差の大きくなる秋の風物詩だ。むしろ、好天の報せとも言える。穏やかな気持ちで、車窓から阿賀野川を眺めつつ、津川駅に降り立った。
つい2週間前にこのエリアを訪れてばかりだったが、一度行くと周囲の山にも興味が湧き、登ってみたくなるものだ。
今回は、阿賀野川の北に位置する飯豊連峰ではなく、南の御前ヶ遊窟へと向かった。
アプローチは鍬沢沿いに付けられた登山道を進む。道は雪国の沢にありがちな、泥と草付きのトラバースもあり、沢の経験がないといやらしく感じるかもしれない。突然、キャラメルのような香ばしい甘い香りに包まれた。ふと顔を上げると、一株に数多の幹を天に伸ばす堂々としたカツラの木が鎮座していて、目を奪われた。視覚だけではなく、嗅覚でも秋を感じることができる。


いつの間にか、空は澄み渡り、青空を背景に白い岩峰が屹立しているのが視界に入った。
目指すスラブはこれだろう。

取り付きのシジミ沢はじっとりとして泥臭い沢だが、登っていくと突然視界が開けた。関東(特に西上州)のハイグレード低山はいろいろ登ってきたが、目の前の景色は、そのいずれとも異なる雰囲気を持っている。豪雪によって磨かれた広大なスラブは、突き抜けるように爽快だ。



ソールのフリクションを効かせながら、快適に高度を稼ぐ。ミスをすればどこまでも落ちていってしまいそうだが、ロープが必要なほどでもない。そもそもアンカーを構築できそうなところはほとんどない。(リングボルトが散見された)
広大なスラブの先には、波打ち、押し寄せるような岩峰群が迫り、気分はさながら海原を進むようだ。




導かれるように登っていくと、やがて巨大な洞穴に突き当たった。これこそが、御前ヶ遊窟だ。平維茂の墓所とされる阿賀町には、この洞穴に維茂の夫人が住んでいたという伝説がある。それはさておき、洞穴内には仏様が安置されており、こんな山深いところで里の暮らしが垣間見れることに感銘を受けた。



そこからさらにスラブを登って南側の尾根に上がると、登山道に出た。一般道といえど侮れないヤセ尾根からは、新雪を纏った飯豊連峰を臨むことができた。季節は着実に進んでいる。そのことが嬉しくもあり、また、少し焦りにも似た感情をも抱いた。



紅葉の最盛期へと進む井戸小屋山を後にして、歩きやすい登山道をのんびりと下った。
馴染みの薄いエリアにまた一つ接点ができ、自分が認識する山のパターンとは一味違う、「変な山」に出会うことができて嬉しい。
Memo
日程
2025年10月30日
行程
7:50 駐車地ー8:25 ソウケエ新道分岐ー9:40 シジミ沢出合ー10:55 御前ヶ遊窟ー11:45 井戸小屋山ー13:10 駐車地
よりみち
将軍杉
全国巨木ランキング・杉の部で縄文杉を抜いて日本一の巨木として知られる。平維茂にちなみ、初代会津藩主・保科正之が石碑を建立したことが由来である。

大山ドライブイン
会津三大ラーメン、「西会津味噌ラーメン」のお店。野菜と味噌の甘みでまろやかな味わいでコクがある。普通盛りでも量はしっかりある。



