
福島県只見町と新潟県魚沼市を結ぶ六十里越。日本有数の豪雪地帯に位置し、その険しさから六里(24km)が六十里にも感じられることが由来となったという説がある。裸山はその新潟県側、豪雪に磨かれたスラブで樹木の生育を阻む、山肌が剥き出しの山である。裸山スラブは、そのもっとも顕著なスラブを登るルートだ。「裸山ダイレクトスラブ」と呼ばれることもあるが、スラブを登り詰めた先が山頂ではなく、ダイレクトという名称には違和感があるので、単に裸山スラブと呼んでいる。

薮っぽい林道を熊に警戒しながら進み、桑原沢の堰堤を越えた先に最初に出合う沢が、取り付きだ。ヌメリの強い沢を慎重に登る。
「全然快適じゃないな〜」と言ってみるものの、そんなに嫌いではない。そして、急に視界が開ける。爽快なスラブの始まりだ。急激な変化に胸が躍る。出だしは走り出してしまえそうな傾斜だ。(実際に走った)




駆け抜けたら一瞬で終わっていまいそうなので、足を止めた。先ほど見上げたあのスラブの中心に自分がいることを実感する。振り返れば、雪化粧した毛猛山と、高曇りではあるものの秋色の山々が美しかった。上部はやや傾斜が増し、好き勝手に登りすぎると身体極まる可能性があるので、ラインを見極めつつ登った。





あっという間にスラブの頭。ナラやナナカマド、ミネカエデやタカノツメの赤や黄色が、壮大なスラブに映えていた。
裸山の山頂までは藪漕ぎとなるものの、踏み跡があるので大変ではない。灌木をかき分けたどり着いた山頂には人工物は何もなく、それがむしろ好印象だった。



下降は吹峠へ方向へ尾根を下降し、940-50m間付近より沢地形を下った。一本手前のスラブ沢を下降している記録もあるが、距離は若干延びるものの前者の方が難易度は低くリスクは小さいと思われる。桑原沢はヌメリがひどく、ラバーソールは相性が悪いため同行者は苦戦していた。しかし、技量にもよるが丁寧な足置きと重心移動を心がければ対応できる範囲で、スラブでのフリクションにはラバーソールに分があるだろう。
会越国境のスラブと紅葉を満喫する旅。本当はもう1本登って帰る予定、というより、本当はそちらが本命ではあったが、夕方から天気が崩れるため次の機会にお預けだ。難易度はさることながら、秋真っ盛りのもと、広大で爽快なスラブをひた登るのは、目新しく素晴らしい経験だった。クライミングシーズンではあるものの、旬には旬の山を登ることは、最高の贅沢だ。
脱線するけれど、六十里越の只見側から見た鬼ヶ面山が格好良かった。誰か、冬にマンモス尾根を一緒に登ってくれないかな。
Memo
日程
2025年10月31日
行程
8:10 林道入口ー8:25 堰堤上ー9:45 スラブの頭ー10:05 裸山ー11:55 堰堤上ー12:10 林道入口
ギア
ロープ30m、スリング(ともに未使用)
よりみち
大塩天然炭酸場
只見の金山町にある炭酸水が湧き出る井戸。大分でも天然の炭酸水を飲んだことがあったが、それはわずかに発泡を感られる程度。ここは、ボコボコと湧いており、炭酸もしっかりとして後味爽やか。付近の炭酸泉・大塩温泉も改装されており綺麗なので併せておすすめ。

越後十日町小嶋屋本店
山から近くはないけれど、帰りに十日町でへぎそばを食べた。この地域のそばは布海苔を使うことが特徴だが、他店よりプリッと感があり美味。

十日町博物館
縄文土器の最高傑作・火焔型土器はほとんどが信濃川流域で発掘されており、国宝の土器を何点も収蔵している。2019年にリニューアルオープンしてばかりで、土器・織物・雪国の暮らしの3つのテーマで、コンパクトにまとまっている。今回、鶏頭冠突起という言葉を覚えた。火焔型土器の実用的ではなく、縄文人の思考が溶け込んだ装飾的なフォルムは、芸術に疎い私にも響くものがある。



