群馬県南西部の山間地を流れる清流・神流川の支流、橋倉川。
西上州に沢のイメージはあまりなかったが地形が特徴的で人気の沢らしく、かねてより気になっていた。
今回秩父で用事があったため、ふらっと一人で出かけた。

橋倉の集落を過ぎて杉の植林地を進み、巨大な堰堤を高巻いてから、沢床に降りる。踏み跡を奥まで進めば、傾斜はあるものの懸垂下降の必要はなかった。

この先にどんな景色が待ち受けているのか。沢を歩いて奥地に分け入っていくにつれて高揚感は高まる。ましてや、一人ならば尚更だ。
やや平凡な渓相進むと、水量の割に両側の岩壁が高く峙ち、V字に切れ込んだゴルジュ地形となる。

最初のゴルジュの入口
ゴルジュ出口の4m滝

ゴルジュの中の2つくらい滝を越えて、4mくらいの滝。この辺りで気づいたが、水流に磨かれたところは岩が赤い。
そうか、チャートなのか。
チャートのゴルジュは見たことがなかった。主に放散虫などのプランクトンの遺骸が海底で堆積して形成されたチャートは、非常に硬い岩石だ。

学生時代に通った松本市の立岩や有名な北岳バットレスもチャートの岩壁だ。
立岩でボルトを打ったとき、異常に硬くて大変だったという話を聞いたことがあるが、一方で、ある年一冬越した後に久々に訪れるとルートが大崩落していたということもあった。

北岳バットレスもまた、度々崩壊を起こしている。1981年には人気ルートの第四尾根にあるマッチ箱のコルが、2010年には、枯木テラスごと崩壊してしまった。

チャートは非常に硬いものの、摂理などに沿って大規模に崩壊する岩石であり、水流によって流心が侵食された後も、両側に岩壁を持つ特異なゴルジュを形成したようだ。

水流でホールドが確認しにくいゴルジュ出口の滝を慎重に登ると、再び穏やかな渓相に。
パタンと大岩がもたれかかった洞窟の中を抜けてしばらく行くと、巨大なカツラの木が目の前に現れた。
極太の幹からさらに何本も垂直に幹を伸ばす堂々とした出立ちに、思わず見とれてしまった。

キノコニョキニョキ
大岩の掛かる滝
立派なカツラ

この辺りの両岸には、ヒノキの植林地が広がっていたから、人間は度々入っているだろう。
建材や家具、碁盤などの用途があるにも関わらず、この立派なカツラが、伐られることなく鎮座しているのは、私と同じような感情を抱いた人がいたからだろうか。

さらに進むと、巨大な岩壁が立ち塞がり、その中央を連爆が割る。

スリットゴルジュと紹介されるそれは、圧倒的だった。

キャッチーなネーミングばかりが先行している名所のような気がして期待値は高くなかったが、それを大きく越えてきた。

スリットゴルジュ、写真以上にスケールがデカい。

感動と高揚感と共に、内部に入っていく。中段まで上がると壁に挟まれた異様な雰囲気。
出口の滝は左から取り付いてシャワーを浴びながら右壁へ。大きなホールドを使いながら、気持ちよく登った。

ゴルジュ内部
チャートの赤い岩壁
スリットゴルジュ出口の滝

間髪を容れず。コロシアムの滝。緩やかな円形状の滝でフィナーレを締め括った。

コロシアムの滝

一人で自然の中に身を置き、アンテナを張り巡らせながらそぞろ歩くのは贅沢な時間だ。
当然、誰かと登るよりも確保の問題などから技術的には易しいところを選ばざるを得ないが、コスパやタイパ、どうせやるなら強度が高い方が充実するといった考え方を捨てて、そのときに自分がやりたいことに向き合っていければいいと思う。