コロナ禍の頃は、よく森の調査の仕事をしていた。梅雨の最中、剣山の南側の名もなき山でテント泊をして、日中は早い時間から雨が降り出してきてしまうものだから、日の出とともに業務を開始して、雨から逃げるようにテントに駆け込む。「限界的山岳労働だ〜」なんて自虐的に話しながら、これっぽっちの悲壮感もなかった。
下山後は、スコールのようなゲリラ雷雨に襲われて、車の運転なんかしてはいけないほどの凄まじい降りだったけれど、街に降りたい一心で車を走らせた。そして、たどり着いたのが、日和佐だった。
ウミガメの産卵で有名な大浜海岸は、穏やかに波音を響かせていて、心底開放的な気持ちになった。そんな思い出の日和佐へ、今回はクライミング目的で訪れた。

前日に徳島入りして、まずは鳴門金時の焼き芋を食べる。ホクホクで美味しい。続いて阿波踊り会館へ。博物館はボリューム少なめだが、阿波踊りのショーは楽しい。お兄さんのキレがすごい。
夜は徳島のブランド鶏、阿波尾鶏の焼き鳥を食
した。普段、街に繰り出して飲みに行くことはないのでたまにはいい。酔った勢いで、覚えたての阿波踊りをしながら締めのラーメンに向かう。通行人の視線は冷たい。味が濃くてバラ肉スライスの載った、すき焼きみたいな徳島ラーメンは、なんとご飯と卵が無料で、しかもおかわり自由。年末年始の長期山行に向けた増量だと意気込み、罪悪感なく食べ切り、そのまま幸せいっぱいで眠りについた。

ホクホクの鳴門金時
阿波尾鶏の焼き鳥たち
徳島ラーメン

徳島県日和佐町(現:美波町)にある岩場なので、一般的に「日和佐の岩場」と言われているが、正確には「阿瀬比ノ鼻」という場所にある。恵比寿浜の埠頭に車を停めて、丘の上の展望台から岩場に下降していく。アプローチは30分程度で、落ちたらアウトな箇所もあるので要注意。

岩場に出て少し歩くと、突如巨大な岩の隙間を見つけた。洞窟状になっていてここが、ドームと呼ばれるエリアである。ここから波打ち際付近まで降って、まずは、威圧感のないひだまりエリアで遊ぶことにした。

ドームを見上げる
ひだまりエリア

日和佐の岩質は、日本では珍しい砂岩で非常にフリクションがいい。さらに、「ポケット」と呼ばれる穴が多く、クライミングジムのような持ち感のホールドが多いことが特徴だ。こうした穴は、タフォニといって、海水の飛沫を浴びた岩が、乾燥する際に塩を表面に析出し、そのとき発生する結晶圧が岩石を破壊し、風化させる作用によってできたものだ。
そして、この「塩類風化」が起きやすいのは、砂岩や凝灰岩といった岩石である。先日訪れた高知県の竜串海岸も、タフォニによって蜂の巣状の独特の地形が造られていた。タフォニ自体は特段珍しいものではないが、砂岩のような堆積岩は、風化しやくクライミング対象にならないことも多い。
しかし、ここの岩は比較的しっかりしているのはなぜだろう。調べてみたが、よくわからなかった。

釣り人とタフォニ

まずは、「幸せな海亀(5.8)」をのんびり登って、「潮騒エクスタシー(5.10b)」へ。こちらも、ジムのようなホールドが続いて楽しい。

幸せな海亀
潮騒エクスタシー

せっかく日和佐まで来たので、メインエリアのドームも登っておかないと、ということで「ラビリンス(5.10d)」を登った。後半、左に出るところがちょっと怖いがなんとかなった。「パピヨン(5.11b)」も登りたかったけど、風が抜けて寒いし暗いので、また、ひだまりエリアでのんびり過ごすことに。

ラビリンスの終了点
ぶら下がる
なんかすごいやつ

スタートも遅めだったので、「のぼれたいやきくん(5.10c)」と「フィッシュダンス(5.10a)」を登ったらいい時間になってしまった。

のぼれたいやきくん
フィッシュダンス、この辺りから核心

自分は山登りを中心に活動してきたので、寒い時期に海岸の岩場を楽しむよりは、冬山に籠ることの方が多かった。そして、海なし県で過ごしてきたので、海というものにそれほど親しみがない。しかし、海と山という相対的なものではなく、自然という観点で見ればどちらも同じだ。訪れた土地の自然とクライミングという手段を通して向き合う。この世界を楽しむ術をたくさん持っている方が、豊かな生き方ができるだろう。海もいいなあ。というより、冬山よりもずっと楽に、安全に楽しむことができる。それでも、心技体が整ううちは、冬山に向かうのだろう。

日本海側ではゴンゴンと雪が降る中、太平洋の日差しは暖かく、日本はどこにでも行けてしまうくらい狭いけど、際限のない広がりと多様性を感じて、心に温かいものが満ちていく。

穏やかな太平洋、遠く紀伊半島まで見渡せる