大学山岳部を出て、ウィンタークライミングに本格的に取り組み始めた頃、冬の錫杖岳によく通った。
天気が悪かったり、入下山は暗闇のことが多いので、クリヤ谷から前衛壁を仰ぎ見たことは、意外と少ないような気もするけれど、中央やや左を断ち切る白い筋の存在は目に焼きついていた。

中央左の氷の筋が1ルンゼ。2018年2月撮影。

1ルンゼは上部に雪田を持ち、そもそもルンゼであるため降雪中は激しいスノーシャワーとなるばかりか、食らったらひとたまりもないような雪崩も頻発する。
したがって、当日の降雪がないことはおろか、直近に大量の降雪がないことが前提条件となる。
また、氷主体のルートなので、しっかりと冷え込んで氷が発達していること、日射の影響の強い東面に位置するため、当日の気温があまり上がらず、かつ曇天くらいが氷の崩壊のリスクを踏まえると、ベストなコンディションだろう。

何度か登ろうとしたこともあったが、当然ながら、そんなに都合のいい日はなかなか訪れない。
別のルートに転進して、1ルンゼから轟音と立てながら爆撃のようにさまざまなものが降ってくるものを目にするたび、肝を冷やした。

ようやく、そんな都合のいい日が訪れた気がした。
少なくとも4日くらい降雪はないし、登攀日は弱い冬型で気温は低いが、降雪はなさそう。ただし、前日、前々日の昇温が気がかりだ。

だが、なんとか持ち堪えてくれるだろうと楽天的に考えたが、実際その昇温を肌で感じると自信は揺らぐ。

果たして、とんでもなくセンスのないルート選択をしてしまったのではないか。そんな不安を抱えながらのアプローチだった。周囲をガスに包まれる中、辿り着いた1ルンゼは申し訳程度の氷があり、耳を澄ませばジャバジャバと水の流れる音が聞こえた。

岩パートをこなすパートナー

「あらら」という感じだが、ここまでは想定内。上部の様子はわからないし、とりあえず登ってみることにする。ちなみに、1ルンゼは未登だったが、数年前に1ルンゼ右俣は登ったことがあったので、左のフェースは超絶怖いけどなんとかなることはわかっていた。パートナーのナイスリードでクリア。

氷瀑パートの出だしは水が流れていた。

ついに、氷瀑パートになるが、氷柱から水が滴ってる、もとい、ジャバジャバと流れている。仕方なく、左から大きく回って、本流に戻った。ここからが、アイスクライミングパートだ。とはいえ、氷質は最悪なので、アイススクリューでプロテクションを採りつつも、側壁のクラックを探して岩でも確実なプロテクションを採っていく。
そのうち、ガスが取れて全貌が露わになってきた。ものすごいロケーションだ

ガスが晴れてきた。氷瀑パートの核心部。

最終ピッチは少しゴルジュ状(※岩に挟まれた地形)になって、垂直となった。氷質はますます悪い。
アイススクリューでは墜落は止まらなそうなので、意を決して突っ込むが、振り返るとナッツが決まりそうなクラックを見つけた。

「おお、神よ。」

願ってもない幸運に急いで、ナッツを取り出して決めるが、体制が悪いので決めにくい。そのうちにパンプ(※腕が張ること)してきたので、さらに数手進んで振り返ると、ナッツがポロリしていた。

「Oh! My God!!」

焦らず、そのまま進んでおけばよかったな。

1ルンゼ最狭部
上部の雪と氷の中間の物体

その後も、雪とも氷ともつかない白い物体を頑張って登ると、緩斜面に出た。
ここが爆撃の発生源か。そして、そのトリガーとなるであろう、上部の岩峰はこの時期キノコ雪となっていることが多いのだが、ほとんど着雪がなかった。きっと、落ちるべきものは大体落ち切ってしまったのだろう。

上部雪田、ここで登攀終了
ひょっこり顔を出したパートナー

フォローでルンゼの隙間から、ひょっこりと顔出したパートナーは、ニヤニヤしながら、

「ペルーアンデス!!」

と声を上げた。確かにな!私は、「かき氷じゃないか〜」と思いながら登っていたけれど、その表現も極めて的確だろう。シュガースノーと呼ばれるそれは、決めたアックスがずれる嫌らしい感覚がある。
もっとも、今登った白い物体は、本家のそれよりもだいぶ水分を含んでいるけれど。

最後まで登れるかどうかわからないコンディションの中、無事完登できて充実の1日となった。

終了点にて
懸垂下降で取り付きへ

Memo

日程

2026年2月16日

行程

4:30 槍見温泉ー6:00 クリヤの岩小屋ー7:25 1ルンゼ取り付きー14:25 終了点ー15:30 1ルンゼ取り付きー17:10 槍見温泉

装備

ハーフロープ60m×2、カム#0.3〜3 1set、アイススクリュー×14(10本もあれば十分だった)、トライカム 1set、ナッツ×1set、クイックドロー×12、ピトン各種×3

下山後のおすすめ

奈賀勢

カツ丼やラーメンなど下山後の腹を満たすのはうってつけのメニューもあるが、なんといってもトンチャンが有名。ホルモンは臭みもなくうまい。締めはうどんを入れて。